一人の合同会社は、実際どう回すのか。年間の手続きは5つだけです
「一人で合同会社を作る」という話は、設立の記事にはよく出てきます。しかし作ったあと、実際にどう回すのかを書いたものは多くありません。この記事はそちらの話です。
結論を先に言うと、一人の合同会社の日常は、驚くほど何もありません。株主総会も取締役会も社員総会もなく、決議も議事録も、原則として発生しないからです。年に数回、決まった手続きをするだけです。
まず、構造を理解する

この構造から導かれるのが、「決議」という概念がほぼ機能しないことです。総社員の同意が必要な事項——定款変更、社員の加入、持分の譲渡——も、社員が自分だけなら自分が決めれば成立します。
ただし、決めたことを記録に残す必要がある場面はあります。登記が必要な変更(本店移転、目的の追加、商号変更など)では、決定した事実を証する書面を添付します。一人でも「総社員の同意書」という形の書面を作ることになります。
1年間で発生する手続きは、5つだけ

役員報酬を決める
事業年度が始まってから3ヶ月以内に、その期の役員報酬額を決めます。一度決めたら、原則としてその期は変更できません。期中に増減させると、差額が損金として認められなくなります。
一人の会社なら、決定するのは自分です。ただし記録として「社員の決定書」のような書面を作り、日付を入れて保管しておいてください。税務調査があった場合、いつ決めたのかを示す資料になります。
社会保険の算定基礎届を出す
4〜6月の報酬額をもとに、9月以降の社会保険料の基準となる「標準報酬月額」を決め直す手続きです。毎年7月10日までに年金事務所へ提出します。
役員報酬が年間を通じて一定なら、記入する内容は毎年ほぼ同じです。電子申請にも対応しているので、慣れれば10分程度で終わります。
年末調整をする
役員報酬から源泉徴収した所得税を精算します。自分ひとりでも、給与を受け取っている以上は必要な手続きです。生命保険料控除や扶養控除を反映させ、過不足を精算します。
あわせて、翌年1月末までに給与支払報告書を市区町村へ、法定調書合計表を税務署へ提出します。会計ソフトを使っていれば、この一連の書類は自動で作れます。
決算を締める
事業年度が終わったら、帳簿を締めて決算書を作ります。貸借対照表、損益計算書、社員資本等変動計算書、個別注記表。合同会社には決算公告の義務がないので、作った決算書を外部に出す必要はありません。
ただし作らなくていいわけではありません。法人税の申告書に添付しますし、融資を受けるときには金融機関に提出します。
法人税等を申告・納付する
事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内に、法人税、法人事業税、法人住民税を申告して納めます。3月決算なら5月末が期限です。
赤字でも申告は必要です。そして法人住民税の均等割(年7万円程度)は、赤字でも納付します。ここが個人事業主との明確な違いです。
個人事業主だったころと、何が変わるか

もっとも大きく変わるのは、お金の出し入れです。個人事業主なら、事業用口座から生活費を引き出すのは自由でした。法人ではそれができません。会社のお金と自分のお金は完全に別で、自分が受け取れるのは役員報酬として決めた額だけです。
会社の口座から個人の口座へ勝手に移すと、役員貸付金として処理されます。これは会社が自分にお金を貸している状態で、返済義務が生じ、利息の計上も必要になります。「自分の会社なのだから自分のお金」という感覚は、法人になった時点で捨ててください。
次に変わるのが社会保険です。国民健康保険と国民年金から、健康保険と厚生年金に切り替わります。保険料は上がりますが、将来受け取る年金額も増えます。また傷病手当金など、国民健康保険にはない給付が使えるようになります。
そして経費の幅。役員報酬を経費にできる、社宅制度が使える、出張日当を設定できる、退職金を準備できる。個人事業主にはなかった選択肢が増えます。ただしどれも要件があるため、使うなら制度を正しく理解する必要があります。
社会保険は、一人でも必ず加入する

一人の合同会社で、設立直後にもっとも見落とされるのがこれです。役員が自分ひとりでも、役員報酬を出すなら健康保険と厚生年金に加入する義務があります。従業員がいるかどうかは関係ありません。
手続きは、年金事務所に「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を出すところから始まります。期限は事実発生から5日以内。設立後の手続きのなかで、もっとも期限が短いものです。あわせて「被保険者資格取得届」を提出し、扶養家族がいれば「被扶養者(異動)届」も出します。
保険料は、役員報酬の額に応じた標準報酬月額をもとに計算されます。会社負担分と個人負担分がありますが、一人会社ではどちらも実質的に自分が払うことになります。役員報酬20万円なら、労使合計で月58,000円前後です。
この負担を避けるために「加入しない」という選択をする人がいますが、後から遡って請求されるリスクがあります。年金事務所は法人登記の情報を把握しているため、未加入の法人には調査の連絡が入ることがあります。遡及される期間は最大2年で、延滞金がつく場合もあります。
一人だからこそ、やっておくべきこと

決めたことを、書面に残す習慣
一人だと、決定と実行の間に何のプロセスもありません。思いついた瞬間に実行できます。これは合同会社の利点ですが、あとから「いつ、何を決めたのか」を示せないという弱点にもなります。
役員報酬の決定、重要な契約の締結、資産の購入。こうした場面では、簡単でいいので日付入りの書面を作って保管してください。税務調査でも、融資の審査でも、記録があるかないかで説明の説得力が変わります。
会社の口座と個人の口座を、完全に分ける
当たり前のようですが、実際にはこれが崩れている一人会社は少なくありません。個人のクレジットカードで会社の経費を払う、会社の口座から個人の買い物をする。一度混ざると、決算のときに整理する作業が発生します。
法人カードを作り、会社の支出はすべてそこに集約するのが最も簡単な解決策です。設立直後は審査が通りにくいこともありますが、決済代行系のカードなら比較的作りやすい傾向があります。
自分が倒れたときのことを考えておく
一人会社の最大のリスクは、代表者が動けなくなったときに会社が完全に止まることです。病気、事故、あるいは家族の事情。代表社員が1人しかいない合同会社では、誰も代わりに契約も支払いもできません。
対策としては、業務執行社員を配偶者や家族にもう1人置く、信頼できる相手に必要な情報を託しておく、といった方法があります。緊急性は低い論点ですが、事業が軌道に乗った段階で一度考えておく価値があります。
設立1年目に、実際につまずくところ

一人の合同会社を立ち上げた人が、初年度に「聞いていなかった」と感じやすい点を挙げておきます。どれも制度としては明文化されていますが、設立の解説記事では扱われないことが多い部分です。
源泉徴収と納付。自分に役員報酬を払う場合、そこから所得税を源泉徴収して、翌月10日までに納付する必要があります。自分に払う給与であっても、この義務は発生します。納期の特例を申請しておけば年2回にまとめられるので、設立時に申請書を出しておくと事務が軽くなります。
住民税の特別徴収。役員報酬から住民税を天引きして、会社が納付する仕組みです。設立初年度は前年の所得に対する住民税を個人で払っている場合が多く、切り替えのタイミングが分かりにくくなります。市区町村から通知が来るので、それに従って処理します。
期首から3ヶ月以内という役員報酬の期限。初年度は「設立日から3ヶ月以内」です。設立の慌ただしさのなかで、この期限が過ぎてしまう例があります。過ぎた後に決めた報酬は、その期の損金として認められない可能性があります。
消費税の判定。設立から2期は原則として免税ですが、特定期間(第1期の前半6ヶ月)の課税売上高と給与支払額がいずれも1,000万円を超えると、第2期から課税事業者になります。順調に立ち上がった一人会社が、意図せずこの条件に該当することがあります。
インボイス登録の判断。免税事業者のままだと、取引先が仕入税額控除を受けられません。取引先が法人中心なら、登録を求められる可能性があります。登録すると免税のメリットを自ら手放すことになるため、取引構造を踏まえた判断が必要です。
まとめ

- 一人の合同会社では、決議も議事録もほぼ発生しない
- 年間の手続きは5つ。報酬決定・算定基礎届・年末調整・決算・申告
- 役員報酬は期首から3ヶ月以内に決め、その期は変更できない
- 会社のお金と個人のお金は完全に別。勝手に移すと役員貸付になる
- 決めたことは日付入りの書面に残す習慣をつける
- 代表者が動けなくなったときの備えを、軌道に乗った段階で考えておく
「会社 立ち上げ 合同会社 一人」で検索すると、設立手続きの解説が中心に並びます。設立後の運用について書かれた記事は相対的に少ないため、社会保険や役員報酬といった個別のキーワードでも探すと情報が揃います。あわせて見ておくと、設立後の1年がイメージしやすくなります。
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